第5話 衝・撃・珠・湯・加 (前編)
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「どうじゃ、見たか。葵」
「すっごーい! すべちゃん、一気に電車道だったね~」
「拙者の本気はざっとこんなものよ。これでこの土俵は我が陣営が頂戴すると・・・ んん?」
「ん~?」
鋭い視線を感じて振り向くスヴェトラーナ。その目線を追う葵。その先には・・・
褐色肌の少女が好戦的な瞳で二人を凝視している。そして無言のまま右手が上がり、葵の顔を指差した。
「葵、あの黒いのがお主に挑みたいと申しておるぞ」
「ほっほー、いいね~」
「油断は禁物であるぞ。なかなか敏捷そうな奴じゃ」
「そうだね~。強そうだね~。わくわくするよね~!」
「・・・お主、緊張感のカケラもないのう」
「え~、そうかなぁ・・・」
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一方、スヴェトラーナの怒涛の突き押しの前に何もさせてもらえず、一方的に土俵外へ吹っ飛ばされた秀は――
「一体なんですの、あの野蛮な外国人は! わたくしの美しい顔に張り手を打ち込むとは全く無礼な・・・」
「・・・・・」
「タ・・・ タマさん・・・?」
「ヒデ=サン、ブザマネー・・・」
「え・・・」
普段は人を人とも思わぬ傍若無人な秀の顔が、別人のようにサッと蒼ざめた。
タマと呼ばれた褐色の少女は半眼のまま秀を一瞥し、直ぐに視線を土俵の対面に向けた。
どうやら正面の青いリボンの少女を自らのターゲットに定めたようだった。
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「ふっふーん。いいね~、まだ見ぬ強豪ってやつだよね~」
「組み付いてしまえばお主の相撲じゃろうが、彼奴を捕らえることができるかの?」
「まーまー、すべちゃんはそこで見ててよ♪」
「ふむ、まぁ、お手並み拝見じゃ・・・」
笑顔でスヴェトラーナにウィンクしてから土俵に一歩踏み込む葵。
体内のスイッチがシリアスモードに切り替わり、瞬時にしてその表情が引き締まった。
一方、厳しい表情で葵を凝視している褐色の少女タマ。こちらも土俵へと足を踏み出した。
すると・・・ 彼女の表情もまた一変した。
「ワタシ、タマチャンデ~ス! ヨ~ロシ~クネ~」
土俵外に居た時と態度や容貌がガラリと変化した褐色少女は、満面の笑みを浮かべて葵に挨拶する。
「『アイサツ』ハ大切ネー。エエト・・・」
首を傾げて葵の目を覗き込み、相手の名乗りを促すタマ。
「葵。 ・・・葛城 葵」
少々毒気を抜かれたものの、厳しい表情のまま葵も自己紹介に応じた。
「ドーモ、アオイ=サン・・・ タマーフィ・マヌア、デス」
両手で印のようなものを結びながら、タマがフルネームでアイサツした。
「・・・どうも」
つられてオジギを返した葵だが、仕切り線の前で仁王立ちの姿勢を崩さない。
傍から見ていると、土俵外に居た時と両者の人格が入れ替わってしまったようだった。
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「お主、あの黒いのとはどういう関係じゃ?」
いつの間にか秀の傍らにスヴェトラーナが立っていた。
「な・・・ 貴女にお答えする義理はございませんわよ」
「ふむ、拙者に惨敗したことがそんなに堪えたか」
「・・・ふん、わたくしが張り手や突っ張りに、まだ順応していなかっただけですわ」
「ほほう、きちんと敗因の分析は出来ておるか」
「貴女など・・・ わたくしの組手に持ち込めば、ものの3秒で土俵に叩き付けて差し上げますわ」
「ほ、それは再戦が楽しみじゃのう。拙者はいつでも受けて立つぞ。ときに・・・」
「・・・何かしら?」
「お主、・・・お秀と申したか・・・ 先ほど興味深いことを申しておったの」
「さて、何か言いまして?」
「ほれ、その土俵じゃ。お主の私物であるかのような物言いをしておったではないか」
「正確には私物ではありませんわ。わたくしの父様が学園に寄贈したのです」
「なんと! 豪勢な父御ではないか」
「ホホホ、世間的にはセレブの部類に入るでしょう」
「・・・さらりと抜かすではないか。真の金満家というのはもう少し奥ゆかしいものじゃ」
「持って生まれた血筋ゆえ!」
「まあ良いわ・・・ ところでお主、葵たちとは別に相撲部を創設しようとしておったのか?」
「その通りですわ。 ・・・創部申請はわたくし達が一歩出遅れましたが」
「むう、珍妙な事もあるものよのう」
「・・・何のことです?」
「これまで相撲部が無かったところへ偶然にも2つの勢力が創部を企てた・・・ これを珍妙と言わずして何と申す」
「・・・まあ、そうですわね」
「のう、お秀。こうして出会ったのも何かの縁じゃ。我らと共に姫相撲部を盛り立ててゆかぬか?」
「あら、リクルートですの? わたくしたちも下に見られたものですわね」
「なんじゃと?」
「ほらほら、取組が始まりますわよ。まずはこの一番、じっくり観戦いたしませんこと?」
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(・・・まだまだつづく。 長いぜ・・・)
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